目標の再設定について

こんにちは。

都内では桜が咲き始めています。春ですね。花粉症もピークです。

今日は目標の再設定ということを考えてみます。

 

訪問診療は通院困難な方を対象にしていますので、対象患者さんは皆さんなにがしかの疾患を抱えています。特にがん疾患の場合は、標準的治療・積極的治療を終えた方を対象にすることが多くあります。

訪問診療を開始するとき、まず初めに患者さん・家族さんとじっくり話します。内容は、患者さんの過去と現在と未来の話です。これをACPと呼びます(というのはちょっと極端ですが、ニュアンスは正しいでしょう)。

 

過去というのは、病歴が主体です。

訪問診療が必要な状態に至る経過について、ざっと振り返ってみます。ここで大事なのは、患者さん・家族さんがその疾患についてどのような理解をしているかを感じ取ることです。過去を振り返るのがつらいようでしたら無理しません。さらっと切り上げます。逆に、今までの経過をじっくり話したい方には十分時間をかけて話してもらいます。その場合は病歴聴取というよりはナラティブ拝聴という感じになります。

もちろん、病歴だけでなく半生を語ってもらうのもありがたいことですが、それは別の機会にしていただきます。

 

続いて現在の話をします。

これは医学的なアセスメントということになります。われわれが患者さん・家族さんのことをどのように理解しているかを根拠を踏まえてお話しします。現在起きている出来事に関して、その原因や理由をわかりやすく説明します。この部分は患者さん側からというよりは医療者側から伝えることが主体になります。

 

続いて未来について話します。

ここが一番重要なところです。そしてつらいところでもあります。

多くの疾患は(老化現象も含めて)進行性です。特にがん疾患は短期間で病状が進行し、機能が低下していくことが特徴です。残念ながらこれを食い止めることはできないのです。

そこで『目標の再設定』ということになります。新たな目標は「のんびり穏やかに生活すること」です。これ一択です。

なんかゆるい目標と思われるかもしれませんが、これには結構残酷な面もあるのです。「病気がよくなること」とか「元気になること」とか「1日も長く生きること」を第一義には目標にしない、という意味が込められているのです。

「のんびり穏やかに」の前には「病気の進行は受け入れて」という枕詞がつきます。大きな決心がいることだと思っています。

 

そしてこれは、われわれの決意表明でもあります。

「のんびり穏やかに生活すること」には期間の限定はありません。これから先ずっと続くのです。期間を限定せずわれわれは全力で支援し続けます。病気を治すことはできないけれど、のんびり穏やかに生活するための支援はできます。医療として苦痛を減らす努力をします。看護として体の状態を整えるお手伝いをします。介護として生活全般をサポートします。リハビリテーションもあります。訪問入浴サービスもあります。様々な福祉用具も活用します。

われわれにはいろんな力があるのです。

 

最後にこれらをふまえて患者さん・家族さんはこれから先どのように過ごしていきたいかを話してもらいます。

思いを言葉にしてもらいます。言葉にすることが重要なのです。家族間では普段面と向かっては言いづらいこともあるでしょうが、この機会に照れずに気兼ねなく言葉にして伝えてもらいます。

いのちに限りがあるということ、その限界が迫っているということ、だんだんできないことが増えていくこと、などさまざまな事実を理解していただいたうえで、意思表示していただくのです。

まさしくACPと言って差し支えないでしょう。