こんにちは。
東京では冷たい北風が強く吹き寒く乾燥した一日でした。外回りはつらいですね。
今日は早期からの緩和ケアについて考えてみます。
2010年に進行がん患者さんに対する専門職による早期からの緩和ケア導入が生命予後も改善する、という報告がなされて以降、関係者の間では早期からの緩和ケアの重要性は広く認知されています。
しかしながらリアルワールドでその有効性を示すのは実は簡単ではないようです。
緩和ケアにかかわる人たちはみな、緩和ケアを普及させたいという共通認識を持っています。
緩和ケアを普及させるためには、緩和ケアの専門職だけではなく、一般の医療従事者(ときには非医療従事者)が緩和ケア提供者になる必要があると考えられています。官民を挙げてそのための活動が行われています。そして非専門職の緩和ケアスキルが上がれば上がるほど、早期から緩和ケア専門職が介入する、ということの意義が薄れ有効性が示せなくなっていくのです。
緩和ケアをいつ(When)導入するか、という点を検証する以前にまず5W1Hについて考える必要があるのかもしれません。
What:緩和ケアとは何か?
Why:なぜ緩和ケアが必要なのか?
Where:どこ(病院、外来、在宅...)で行うのか?
Who(Whom):誰が提供するのか? 誰に対して行うのか?
How:どのような方法で行うのか?
これらに適切に返答するのは容易ではないと思います。決まった答はないと言ってもよいかもしれません。
では、これらを在宅医の立場から掘り下げてみようと思います。
とはいっても、What(緩和ケアとは何か)とWhy(なぜ緩和ケアが必要なのか)についてはここでは触れません。これらはいろいろなところで深く語られていますので、お知りになりたい方は検索してみてください。
Whom(誰に対して行うのか)については、緩和ケアはがん患者さんに対するケアとして発展してきましたが、現在では非がん患者さんに対しても広く行われるようになっています。疾患による垣根が取り払われてきています。
Where(どこで)とWho(誰が)とHow(どうやって)は密接にかかわっています。
早期ではなく晩期(ターミナル期)においては、ホスピスで、緩和ケア専門職が、入院医療という形で行うことが多かったのですが、21世紀に入ってからは、住み慣れた家で、在宅医・薬剤師・訪問看護師・リハスタッフ・介護職らが、在宅療養支援という形で多職種で協働して行う、という方法が発展してきています。
一方で早期からの緩和ケアには多様な形があります。
がん診療病院で、がん診療従事者が、がん治療と同時に行う、という場合もあれば、がん診療病院で、緩和ケアチームが、サポーティブケアという形で行う、という場合もあります。またクリニックで、かかりつけ医が、専門医療機関と併診という形で行う、という場合もあるでしょう。
また最近では、早期からの緩和ケア外来という専門外来を開いている医療機関も出てきています。
さらには疾患の治療とは直接関係のない場所で、治療に携わらない人たちによる、医療行為ではない緩和ケア提供というものもあります。暮らしの保健室とか、がんカフェやサロンといった様々な活動が行われています。
早期からの緩和ケアにおいては在宅医の出番は直接的にはあまりありません。早期からの緩和ケアと在宅医療は相性があまりよくないのです。なぜなら早期からの緩和ケアの対象となる方は自立した生活を送れる場合がほとんどであり、通院困難な方を対象とした在宅医療・訪問診療が必要になることはほとんどないからです。
緩和ケアを受ける側からすれば、いつからであろうと始まった時から晩期(ターミナル期)に至るまで一貫した連続性のあるケアの提供が望ましいでしょう。先に示したように、晩期においてはホスピス医や在宅医らが他職種と協働して専門的な緩和ケアを提供しますが、制度上それらのスタッフが早期から介入することは難しいのが実情です。早期と晩期の間にどうしても分断、非連続性が発生してしまうのです。
在宅緩和ケアを提供する我々が、早期から緩和ケア提供者として介入できるような仕組みづくりが必要です。ヒントは早期からの緩和ケア外来やがんカフェなどにあります。当院も工夫しながら進めていこうと思っています。
緩和ケアを必要とするすべての方々に、ワンストップの緩和ケアを提供することを目指していきます。