こんにちは。
インフルエンザや新型コロナウイルス感染が猛威を振るっている今日この頃ですが、皆さんはお元気にお過ごしですか?
人の集まる屋内では、ぜひマスクをしましょう。
それはさておき、今日は訪問診療のキモについて話してみます。キモというのはもっとも重要かつ絶対になくてはならないものです。以下個人の感想なので、同意できないところもあると思いますが、大事なことをお話しします。
話が大きくなってしまいますが、まず最初に医療の本質について考えます。
そもそも医療の本質とは、突き詰めて言えば『避けうる死(preventable deathと言います)を避けること』だと思います。外傷にせよ、病気にせよ、さらには疾病予防も含め、これは真実でしょう。言い方を変えると『死をできる限り遠ざけること』とも言えます。
一方で『避けられない死(inevitable deathと言います)』というものもあります。究極的にはすべての生物はそこに行きつきます。
医学の進歩とは、従来は死が避けられないと思われていたものが避けられるようになること、とも言えます。医療技術も、治療薬も、ワクチンも、これを目指しています。
それでもなお、死が避けられない状況はあります。標準的治療が功を奏さなくなった進行がん、末期的な臓器不全、嚥下機能が廃絶した認知症、さらには老衰状態など、現代医学が無効な状態はいたるところに存在します。
ここで重要なのは、生命の危機的状況に陥った方において、最大限の医療行為を施すことで『死』が避けられるのか(preventableなのか)、どのような医療行為を施しても『死』が避けられない(inevitableな)状態なのかを正しく見極めることです。
残念ながらこれを100%正しく判断することは不可能です。だからこそ、まずは死が避けられるはずだという仮定(前提)のもとに医療行為を施すのです。救急医療・急性期医療はそういう前提のもとに成立しています。
では、在宅医療はどうでしょうか。
在宅医療は終末期ケア(ターミナルケア)であることが多くあります。
終末期とは『死を避けるための医療行為が有効ではないと判断された状態』と言い換えることができます。避けられない死(inevitable death)が近づいている状態とも言えるでしょう。だからこそ死を遠ざけることより一日一日を大切に過ごすこと(QOLを高めること)が重要になってきます。
そこで在宅医は常に「本当に死を避けることができないのか(inevitableなのか)?」ということを自分に問い続けなければなりません。
本当に終末期なのか?
本当に医療は有効ではないのか?
100%の確証はあるのか?
自問自答するのです。これが訪問診療のキモです。
目の前の患者さんの『死』が避けうるのか避けられないのか(preventableなのかinevitableなのか)を正しく判断するためには多くの経験・トレーニングが必要だと思っています。教科書を読んだだけでは決して習得できません。
そのためには、救急医療・急性期医療の現場に身を置かなければならないと思っています。たぶん最低でも10年はかかるのではないでしょうか。
在宅医療・訪問診療・在宅緩和ケア・在宅ターミナルケアは誰にでもできるものではありません。
「積極的な医療処置は施さない」「自然経過を見守る」という方針を決定するためには十分な経験と研鑽が必要だと思っています。