こんにちは。
少しずつ秋らしくなってきています。
コロナ禍に振り回されながら過ごしていましたが、東京都では第7波も下火になってきているみたいですね。
このところはわりと穏やかな日が続いています。
緩和ケアの知識のある方なら、トータルペインという考え方はご存じだと思います。全人的苦痛と訳されています。緩和ケアを実践する中で、日々直面していながら解決できていない課題です。
そのことについて少し記してみます。
トータルペインという概念は、近代ホスピスの生みの親と称される偉人シシリー・ソンダース先生が1980年代に提唱されたものです。
シシリー・ソンダース先生は看護師・ソーシャルワーカーとして末期がん患者のケアに従事されたのち、一念発起され医師になられたそうです。その行動の原動力になったのは、担当していた余命わずかな末期がん患者さんと恋に落ちたことだそうです。人を動かすのは愛の力ということでしょうか。
それはさておき、シシリー・ソンダース先生は末期がん患者が持つ苦痛は身体、精神ばかりでなく、社会的そしてスピリチュアルと呼ばれる根源的な苦痛があり、多面的である。それらはお互いが影響し合って全体を形成すると考えました。それをトータルペインと名付けたのです。
それは今日に至るまで、我々が患者さんの苦痛に対峙するときの基本理念になっています。
ぼくは医師なので、身体的苦痛を取り除くことが主業務です。そして、社会的苦痛、精神的苦痛に対処するにはそれぞれ専門職があります。もちろん兼務することはありますが。
ではスピリチュアルな苦痛はどうすればよいでしょうか? スピリチュアルな苦痛に対処する専門職はあるのでしょうか?
そもそもスピリチュアルな苦痛とはなんでしょうか?
スピリチュアルな苦痛とはなんなのか、どのような尺度で評価し、どのように対処すればいいのか、むずかしい問題です。ぼくは永遠に解決不能だと感じています。それに対処する専門家もいないと思っています。
解決不能だからと言って、放置していいわけではありません。専門家がいないのなら、緩和ケアに関わる全てのスタッフが何らかの形で対処するべきです。
村田久幸先生は、終末期がん患者のスピリチュアルペインとそのケアという論考の中で「スピリチュアルペインとは自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛」と定義されました。
将来の喪失(時間性)、他者の喪失(関係性)、自律性の消失(自律性)から生じる苦痛であると解説されています。
山崎章郎先生は、他者の喪失という部分に重きを置き、困難な状況にある患者さんが自己を肯定するためには、そのよりどころとなるような他者が必要であり、そのような他者とのつながりがなくなることがスピリチュアルペインであると解説されています。
スピリチュアルな苦痛は難解であり解決困難だと思っています。しかし、解決困難でもその苦痛を少しは減らすことはできるのではないでしょうか。
そのために我々に課せられた使命は、困難な状況にある患者さんのありのままを受け止め理解し肯定する、というような関係性を作り、患者さんが亡くなった後もその関係性を保持し続けるということだと思います。
そして我々があなたとそういう関係性にあるのだということを患者さんにことばで・態度で示さなければならなりません。
ほんのわずかでもスピリチュアルな苦痛が減らせればいいと願っています。