こんにちは。GWも終わって忙しさが増しつつある今日この頃です。
先日、いつも勉強させてもらっている『地域医療ジャーナル』というwebマガジンに、
抗精神病薬が効くというのはどういうことですか?~せん妄に対するエビデンスからの考察~ 1)
という記事がありました。記事を読んだ感想を含め、今日はせん妄についてお話します。
せん妄というのは、「急性に生じる注意障害を主体とした一過性の意識障害」のことです。何らかの疾患や身体的状態、薬剤などによって引き起こされるものです。在宅療養の場でもしばしば出会うことがあります。
過活動型のせん妄の主な症状は、注意障害、睡眠覚醒のサイクルの障害、見当識障害、幻覚、妄想などと報告されています。
夜中に急に起きだして、つじつまの合わないことを言いながら、ベッドから降りようとして...。という風な感じです。
介護に従事しているご家族は、その急な出来事におどろき、狼狽し、心を痛めます。
なんとかいさめて、ベッドに寝かせて、そばでじっと見守っていると、朝方には眠りにつき、お昼ごろには何事もなかったように目を覚ます、というような経過をたどることが多くあります。
目を覚ましたご本人は、せん妄状態のことを鮮明には覚えておらず、「そういえばなんかいやな夢をみたかなぁ」というような感じのことが多いのですが、せん妄状態を目の当たりにして、朝までまんじりともせず寄り添っていたご家族にとっては、それは身体的にも精神的にもとてもつらい経験となります。
そこで、われわれの出番です。
在宅医としての考え方は、
1.それは本当にせん妄だったのか?
2.せん妄だとしたら原因、誘因は何か?
3.原因、誘因のうち除去できるものはあるか?
4.治療を目指した薬物療法を行うか? どの薬を使うか?
5.薬物療法が効果的でない場合はどうするか?
6.在宅で対処可能か? 家族は受け入れられるか?
といった感じです。
せん妄には、原因、誘因というようなものがあります。原因、誘因が除去できてしまったら、解決するかもしれません。
そこで大事なのは、薬剤性のせん妄です。投与中の薬剤をすべて疑ってみます。原因になる可能性のある薬剤は、可能なら中止ないし減量、他剤への変更を検討します。
そのうえで、必要に応じて薬物療法を考えます。
ここで抗精神病薬の登場になるわけですが、最初にご紹介したwebマガジンで取り上げられているように、実は「抗精神病薬はせん妄の治療には効果的ではないばかりか、むしろ有害である(副作用がばかにならない)」という報告 2) がなされたのです。しかも緩和ケアの現場においてです。
うーん。これは悩ましいことです。ゆゆしき問題です。これを踏まえて、われわれはどう対処すればよいのでしょうか?
私見を交えて問題点を列挙してみると、
・せん妄には抗精神病薬が効くものと効かないものがあるのだろう。見極めが重要だ。
・在宅緩和ケアの現場においても、抗精神病薬の効かないケースは多そうだ。
・逆に、自然に治っていくものもありそうだ。
・たとえ抗精神病薬が効かないせん妄だったとしても、なんとかしなければいけない。
われわれが行うのは、在宅緩和ケアですから、なんとか苦痛を減らさなければなりません。そしてここでは、ご本人の苦痛だけでなく、介護者(ご家族)の苦痛にも配慮が必要です。
そこで『鎮静』という考え方が出てくるのです。
抗精神病薬が効果的でないせん妄に対し、手をこまねいているのではなく、鎮静効果を目指した対応をする、という方法があります。しかしここで新たな難問が発生します。
「薬物療法が無効なせん妄に対して鎮静的対応を行うことは是か非か」ということです。
長くなってしまったので今日はここまでとします。
在宅緩和ケアにおける鎮静、という問題はまた改めてお話ししようと思います。
参考文献
1) 抗精神病薬が効くというのはどういうことですか?~せん妄に対するエビデンスからの考察~ 地域医療ジャーナル 2017年5月 vol3(5) https://cmj.publishers.fm/article/15224/
2) Agar MR. et al. Efficacy of Oral Risperidone, Haloperidol, or Placebo for Symptoms of Delirium Among Patients in Palliative Care: A Randomized Clinical Trial.